眠りは脳が積極的に関与している

昔は、眠っている間に「脳や身体の機能が低下する」と考えられていました。しかし、さまざまな研究が進むにつれて、眠りは脳が積極的に関与しているものであることがわかってきました。

そのきっかけは、「脳炎」という病気の研究です。20世紀の初頭に流行した脳炎は、一般の脳炎に見られるような発熱や頭痛のほかに、睡眠に関連した奇妙な症状が認められました。それは、昏睡状態になって眠り込む患者と、眠れなくなってしまう患者がいたのです。

この疾患を報告したオーストリア・ウィーン大学のフオン・エコノモは、この疾患で亡くなった患者の脳の障害を調べ、中脳上部に障害があった患者は、半ば眠ったような状態になる「嗜眠」の症状を呈し、視索前野に障害があった患者は不眠になるということを発見しました。

このことから、「中脳上部は覚醒を起こさせる機能をもっており、視索前野は睡眠を起こさせる機能をもっている」という仮説が提出されました。この疾患は「フォン・エコノモ脳炎」と呼ばれています。

その後、イタリア・ピサ大学のモルッツィと当時米国・UCLAにいたマグーンらが、「上行性網様体賦活系」という概念を発表しました。これは、脳が脊髄に移行する部分(中脳・橋・延髄)には、大脳に向かって信号を送り、大脳を覚醒させるメカニズムがあり、このメカニズムの機能が低下をすると意識が低下するという考え方です。

さらに、その後の研究からは、この部分にレム睡眠のさまざまな特徴(覚醒時に似た脳波活動、急速眼球運動、筋電図の数値の低下など)を発現させるメカニズムがあることもわかってきました。

一方では、このような睡眠や覚醒に関連した脳の部位だけでなく、脳の中で働いている物質についての研究も進んできました。「睡眠物質」の概念の誕生です。

20世紀の初頭のほぼ同じ時期に、日本の石森國臣(愛知県立医科専門学校、現名古屋大学医学部)とフランスのアンリ・ピエロンが非常に類似した興味深い研究をしました。

これは、犬を長い間眠らさせず、非常に眠気の強い状態にした後、その犬の脳の成分を抽出し、通常の覚醒状態にある別の犬の脳に注入するというものです。

この結果、この成分を投与された犬は寝込んでしまいました。この研究は、睡眠が単に脳が受動的に休むだけではなく、何らかの物質が積極的に脳を休ませていることを裏付ける証拠として考えられ、その後の睡眠に関連した睡眠物質の研究が進むきつかけになりました。

そして、20世紀の半ばから、睡眠に関連した脳内の物質の働きが次第にわかつてきて、これには日本人の研究者も多くかかわっでいます。

 

早寝・早起き

「幼児の生活アンケート」の4回の調査を見ると、1995年から2000年にかけては、幼児の睡眠時間が夜型になり、午後10時過ぎに就床する子供の割合が増えていました。その後、このような状況についての危機感から、さまざまな方面から早寝・早起きが奨励されました。

文部科学省も「早寝・早起き・朝ごはん」国民運動を推進しています。このようなことから、2005年の調査では、1995年のレベルまで早寝・早起きになってきました。そして、2010年の調査では、さらに早寝・早起き傾向が強まっています。

では、小学校から成人までの睡眠の変化はどのようなものでしょうか。この時期も、幼児期と同様に非常に重要な発達の時期です。米国・カリフォルニアのファインパークらのグループは、9歳から18歳の小中高生のグループの脳波を毎年測定するという追跡調査を行い、睡眠脳波が成長にともなってどのように変化するのかを調べました。

この結果は、深い睡眠の指標であるデルタ波の量は、12歳まではあまり減少しませんが、その後16歳まで急激に減少することがわかりました。

また、9歳から15歳までの時期の眠気を測定してみると特に11歳を過ぎた頃より、眠気が次第に強くなってきます。日本では小学校高学年から高校1年生までの期間ですが、この期間の睡眠の変化が脳の発達にどのような意味をもっているのかは、まだよくわかっていません。

このように、生まれてから成人するまでの期間は、睡眠が著しく変化する期間です。睡眠は、脳のさまざまな変化を反映しながら変化しているとも考えられ、この時期の睡眠が脳の発達に重要な役割を果たしている可能性は、ますます強まってきています。

一方で、改善の兆しが見えるものの、子供たちの睡眠時間は短くなっています。ぜひ、睡眠の重要性を考えて、健全な脳の発達を妨げない生活をしたいものです。

 

熟睡してスッキリ目を覚ましたい